シニアの視点で分析する!良くわかる経済学入門

シニアの能力は、年々若返りの傾向を見せている。社会活動、ことに仕事という側面にあっても、若い年齢層と遜色はない。ただ、スピード感、使う道具、属するシステムが違う。この差異を克服できれば「エイジレス就業」とでも言える、シニアの能力を最大限に活かせる新しい就業の形が見えてくる。

シニアの就労こそ、日本を救う?

安倍政権の政策の一つ「1億総活躍社会」に、1億というからにはシニア世代も当然含まれる。
日本は世界のどの国もいまだ経験したことのない、超少子超高齢社会に向かってひた走っている。

すでに人口減少に転じているだけでなく、やがて20年もしないうちに、総人口に対して65歳以上の高齢者の占める割合は、33%を越えるとみられ、21世紀内に日本の総人口は半減するという試算もある。

その中で、社会・産業の担い手としてのシニア世代の役割は、果てしなく大きい。活躍しなければならないのだ。
労働の担い手として、一つにはロボットの活用が考えられている。

この流れは止められないほどの激流となって、ひょっとすれば若年層の就労の場を奪いかねない危険も孕みつつ、当然の流れとして受け止められていくだろう。
また、海外からの労働力の調達といった可能性も語られるが、現在のヨーロッパやアメリカなどの難民問題を鑑みるに、その可能性には疑問符もつき始めている。
そうなれば、ロボット以外の労働力としてのシニア層の活用は、肯定的に考慮されることになるだろう。

「NIRA(財団法人総合研究開発機構)」というシンクタンクがある。骨太の政策提言などを行っている組織だが、その中に「シニア世代の能力を生かせ」という提言をみつけた。
何人かの大学教授らが提言をしているのだが、その主旨の多くは「シニアが働ける環境作りが大事」というもの。
当然のことだが、若者とシニアにはかなりの就労環境の隔たりがあるのも事実だ。

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スピード感の克服が高齢者就労の条件

バカバカしい例えという人もいるだろうが、おそらくもっと問題になることがある。
高齢者と若者の物理的なスピード感が違うということ。高齢者が踏切で轢ねられるという事案が毎年起こるが、社会は若者のスピード感で構成されている。システム構築の方法論がより効率的であることを、つまりは若者のスピードに合わせて作られているのだ。信号のインターバルもそうだ。同じようなことが随所にある。

スピード感を高齢者に合わせれば生産効率は著しく下がる。それは、分かる。
それなら「それでも良い」産業、「それでも可」という就労状況を構築すれば良い。
産業構造そのものも、もうけ至上主義的なことではなくなるだろう。なぜならすべての産業の基盤となる国内産業が支えるべき社会が、ものすごい勢いで縮小するわけで、利益の意味も価値も変化せざるを得なくなるのではないか。「なんのための産業(仕事)なのか」という、言ってみれば哲学的な問いかけすら必要になるのではないか。ただ、その中でシニアが恒常的に活躍可能な場を作ることは、いまの若者中心の社会・産業構造を当たり前のものとして考えれば、難しいかもしれない。

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シニア自身が新しい場を創出「百歳万歳ライターズ倶楽部」

だが、シニア的視点から、これまでになかった就労状況、社会・産業構造を構築することは可能なのではないか?

例えば先ほどのNIRA提言中の筑波大学人間系原田悦子教授は「シニアに合った就業環境があれば能力を発揮する」という主張の中で、高齢者に目や耳の機能低下が起こるのは当たり前のことで「高齢者は自分の能力を高く保てるよう、いろんな方略を編み出している」として、「高齢者にマニュアル通りの働き方を求めるのは得策ではない」という。そして「画一的な完璧主義を捨て、働き手の個々の事情を許容する『緩やかさ』があれば、シニア自身が現場で工夫しながら、持っている能力や機能で力を十分発揮できる」としている。

これまでのシニアの就労といえば、清掃作業、交通整理、ビルなどの管理などといった、社会・産業構造の主流からやや外れた、バイトやパート程度のものだが、むしろこれまでシニア自身が培ってきたキャリアに即した場を設定する方が、これからの日本にとっては有益だろう。

もっといえば、シニア自身が新しい場を構築することが望ましいともいえる。
例えば本誌では、「百歳万歳ライターズ倶楽部」を立ち上げた。全国におられる「書くこと」あるいは写真を「撮ること」、イラストを「描くこと」を得意とされている、いまは一線を引かれた方を再結集したいとの考えからだ。それぞれ得意分野を特化して参加してもらえる受け皿を作る予定だ。

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形としては在宅で「ランサーズ」や「クラウドワークス」のシニア版ということになるかもしれない。実際に原稿を書いていただき、相応の報酬もお支払する。お願いする原稿や写真は、できるだけ締め切りを長く設定するなどの工夫もする。
それぞれの産業の中で、就労時間や頻度も考慮した就労の形や報酬が考えられるだろう。

こうしたシニア中心の発想を基本に据えた就労の形態、産業構造を考えることは、超少子超高齢社会に対応する新しい産業構造を生み出す契機にすらなるのではなかろうか?